KMバイオロジクス株式会社 (熊本市, 以下KMB社) は2021年1月,電話によるSPDPの問い合わせに対し,同社の動物用製剤「ツベルクリン」の製造・販売を終了すると回答しました。現在市場に流通している製造ロット "102" をもって「ツベルクリン」の供給は停止される見通し。SPDPでは対応に関する情報を収集しています。
【写真】「化血研」時代の製品
■KMB社の説明骨子
(回答: 2021年1月22日,動物薬事業本部 営業部)
「ツベルクリン」の製造を終了する。理由は次の通り。
牛由来の畜産製品を輸出するにあたり,従来よりウシ結核の検査法をOIE基準に準ずるようEUから求められていたが,2020年8月,農林水産省はこの要求を受け入れる旨を決定した。これまでの検査ではKMB社の「ツベルクリン」が使用されていたのに対し,新しい検査法ではウシ型およびトリ型結核菌由来のPPD (※1) を使用する。KMB社ではこれに伴い「ツベルクリン」の主たる用途がなくなったと判断し,製造終了を決断した。
※1 PPD: 精製ツベルクリン。サル類のツベルクリン検査で使用されてきた "Mammalian Old Tuberculin"; MOTとは製法・成分構成が異なる。
■サル類と「ツベルクリン」
全てのサル類は結核菌に感受性があります。サル類の結核は致死性が高く,進行の過程で特定の症状を示さないことが多いと言われています。そのため一旦罹患すると周囲のサルへと拡大しやすく,また取り扱うヒトにも感染の及ぶ危険が伴います。幸いなことに,輸入検疫で希にみられる水際発見例を除き,ここ10年以上も日本国内での発生報告はありません。そんな状況の日本において,「ツベルクリン」はずっとサル結核のスクリーニングに汎用されてきました。結核の脅威からサルのコロニーを守る最前線のツールといっても過言ではありません。
ヒトのツベルクリン試験で使われている精製ツベルクリン (PPD) ではなく,“MOT” と呼ばれるこのウシ用の製品がサルに対して使い続けられてきたのには理由があります。一般的にサルでは "PPD" より “MOT” の反応性が著しく高いとされており,古くから学術書籍や各種ガイドラインにその使用が推奨されてきたためです。以前は化学及び血清療法研究所 (化血研),その事業を引き継いで後はKMB社が供給してきた「ツベルクリン」は,国内市場に流通している唯一のMOT製剤です。これが終了となったいま,日本国中のサルたちを今後どのように結核から守ってゆくべきか,当研究会ばかりではなく全ての関係者が挙って考える必要があります。
本件を受けてサル類の疾病と病理のための研究会では,代替品や代替検査法に関する調査を開始しました。皆様と情報を共有し,今後の対応について議論・検討を深めて参りたいと考えています。
★本件に関連した情報,ご検討中の対策案,その他ご質問やご意見をSPDPまでお寄せ下さい。
連絡先: サル類の疾病と病理のための研究会事務局
■SPDPからのお願い
- 個別のお問い合わせがKMB社に集中すると先方のご迷惑になる場合があります。製品についての詳細はKMB社の公式アナウンスをお待ち下さい。皆様のご配慮を呉々もお願い申し上げます。
- 流通品のご購入は必要最小限にとどめるよう,冷静なご対応をお願いいたします。
- 一部販売業者から代替品として「一般診断用精製ツベルクリン」(※2) を提示されたという情報が届いています。現状ではサル類における精製ツベルクリン (PPD) の有用性に関して十分なデータが蓄積されているとはいえません。代替品の選定にあたっては慎重なご検討をお勧めいたします。ご不明な点はSPDP事務局までお問い合わせ下さい。
※2 一般診断用精製ツベルクリン: ヒト型結核菌に由来するPPD。ヒト用のツベルクリン試験用。