SPDPの新展開
-CPCの試み, SPDPと霊長類学-
【開催日】
第一日 2018年7月7日(土) 13:00 〜 17:30
- 懇親会 18:00 〜
於 園内レストラン「楽猿」
第二日 2018年7月8日(日) 9:00 〜 12:00
- エクスカーション 13:00〜
- 京都大学霊長類研究所ラボツアー
- 日本モンキーセンター バックヤードツアー
- 日本モンキーセンター 園内ツアー
【会 場】日本モンキーセンター
ビジターセンター内レクチャーホール
- 愛知県犬山市犬山官林26
【大会長】鈴木 樹理 (京都大学霊長類研究所)
【主 催】サル類の疾病と病理のための研究会
未曾有の豪雨の中,2018年サル疾病ワークショップはサルの聖地,日本モンキーセンターで開催されました。これまでにない試みがいくつもなされ,SPDPの大きなマイルストーンとなりました。(報告・写真: 板垣 伊織)
*〜* - *〜* - *〜* - *〜* 【 謝 辞 】 *〜* - *〜* - *〜* - *〜*
会場をご提供いただいた公益財団法人 日本モンキーセンターと
細やかな心配りで全面的にサポート下さった日本モンキーセンター職員の皆様に
SPDPより心からの感謝を申し上げます。
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【新展開1】日本モンキーセンターでの開催
SPDPワークショップというと麻布大学百周年記念ホールのイメージが強いかも知れません。それ以前には霊長類学会のサテライト集会だったり,公共のホールを借りて開催していたこともあります。他にも銚子市の千葉科学大学に出向いたり,長良川の温泉宿で泊まりがけという集会もありました。
あちこち巡ってきましたが,営業中の動物園というのは今回が初めてです。世界屈指のサル類専門動物園,世界屈指の飼育展示種を誇る「日本モンキーセンター」での開催は,まさにSPDPの「ワークショップ」たりえるものでした。しかし初めてのケースに不安はつきものです。雲行きあやしく風雲急を告げる,大会初日のビジターセンター外観です。
しかしフタを開けてみれば,日本モンキーセンターの皆様の全面協力で全ての問題は払拭されました。大会の終わる二日目には梅雨明けを彷彿とさせる青空が拡がり,サルたちと子供たちの元気な声が園内に響き渡っていました。
【新展開2】CPC
"Clinico-Pathology Conference"。CPCとは,臨床と病理の討論会のことです。一つの症例に関する臨床情報と病理検査の結果をもちよって討議するため,臨床家も病理学者もその症例に対する理解が一層深まります。今大会では初めて,CPCの形式で5症例が提示されました。
日本モンキーセンターの岡部直樹さんが提示した「ワオキツネザル (Lemur catta) における角膜平滑筋肉腫の一例」は,いままさに園内で暮らしているワオキツネザルのことです。発症から悪化,摘出までの過程は,実際にそれを観つづけてきた獣医師だけが語り得る臨場感に溢れたものでした。さらに大会後のエクスカーションでは,その隻眼となったサルが元気に動き回る姿まで見ることができました。サルにとって非常に大切な眼を片方とはいえ失い,もう片方も万全とは言えない状況でも懸命に生きているこのワオキツネザル。サルとヒトとが共に病気に立ち向かい,これを克服した事実を示す生き証人と言えます。元気を取り戻し,金網を攀じ登って遠くを視ているその姿をご覧下さい。
【新展開3】霊長類学へのアプローチ
SPDPが設立されたのは1999年のことです。その後しばらくSPDPの集会は,日本霊長類学会期間中の自由集会枠で開かれていました。それがいつの間にか別々の開催となり,図らずともSPDPと霊長類学会はその頃からそれぞれ独自の方向へと歩みを進めてゆくことになります。共通する会員はたくさんいらっしゃいます。しかしSPDPではサルという生き物そのものの生態や行動という視点に乏しかったように思いますし,霊長類学会はサル類の資源という側面,ヒトの社会を潤す医科学研究のための実験動物という面から目を背けていたのかも知れません。
そのいずれもがサル類にとっては真実です。生物系の自然科学に数多の分野がある中で,サル類というごく限られた動物種を研究対象としているSPDPと日本霊長類学会です。会員同士がもっと交流し,よもやまの話から専門の研究内容まで情報を交換しあうことは,決して不自然ではありません。互いのことを知ってみれば意外と親しみが湧くのが人間です。そんな思いで,今年のワークショップには現日本霊長類学会会長の中道正之先生をお招きしました。
中道先生が私たちに伝えてくれたのは,サルの生き様そのものでした。生まれ,食べ,遊び,成長して交配し,子をもうけ,育て,年を経て病に倒れ死んでゆく無数のサルたち。中道先生はそれら一頭一頭の在りようをつぶさに見続けてきました。時に抱えていた子ザルが死に,その亡骸を何週間も抱きつづける母ザルがいました。中道先生から教えて頂いたサルたちの喜びや悲しみ,幸せや老いてゆく苦しみはそのまま,私たちの命の根源に存在する感情のように思えました。
サルの病気を理解し,これを治療するには,サルの生態や行動,生理や心理にいたるまで,サルという生物そのものを知る必要があります。単純なことですが,そのことに気が付いたのはつい最近のことでした。世界各地のいろんなサルを訪ね歩き,その生態について観察できればそれほどの幸せはないと思いつつ,現実はそうも参りません。そうであれば,いろんなサルを知っている人の話を聞き,書をひも解くに如かずです。中道先生のご講演をきっかけに,霊長類学会や日本モンキーセンターの皆様との交流を拡げてゆきたいと感じました。
メインテーマ「眼」
SPDPではおなじみの勝田修さんは,カニクイザルの眼病変について紹介して下さいました。眼の病変は日ごろそれほど出あうことはありません。サルの眼を見続けてきた勝田さんならでは,顕微鏡をみない限りは恐らくは当のサルですら気付かない小さな網膜病変から,ヒトで問題となっている主要な眼疾患のモデルと言える病変まで,丁寧に解説して下さいました。
新日本科学の荒木智陽さんは最先端の眼科検査について紹介して下さいました。今は網膜の断面まで非侵襲的に観察することができるそうです。サルがいったいどのような像を見ているのか知ることができる日も近いかも知れません。高機能な機器を使うのも人間です。操作技術に精通し,得られた結果を正しく判断する能力があってことそとは,まさにその通りと思いました。
ポスターセッション
サルの疾病に関する7題のポスターが提示されました。
今年はプレゼンとディスカッションの時間を十分に設けたため,かなり白熱した議論が展開されました。本音が飛び交う生々しいやり取りも,SPDPならではです。症例やサル種,研究分野を超えた,参加者同士の新たな連携が生まれることを期待しています。
そんな中で,今年の優秀ポスター賞が決定されました。
第27回サル疾病ワークショップ
優秀ポスター賞
コモンマーモセット乳首再形成の試み
発表者: 齋藤 亮一
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
【感想】子どもにとって母の乳首は生命の拠り所,あらためて気付かせてくれたご発表でした。
選考委員
山海 直, 鈴木 樹理, 中村 紳一朗, 佐竹 茂, 三浦 智行, 木村 展之, 石坂 智路, 板垣 伊織