8月のクアラルンプールは雨期のまっただ中です
雨期とはいっても始終雨が降る訳ではありません。日中はおだやかに晴れ,夕方にスコールがやってきます。湿度はやっぱり高いですが,体感気温は日本より涼しい位です。
時間になると街の何処からかコーランの祈りの声が聞こえてきます。何処からといいますか,至る所のスピーカーから大音声で鳴り響くのですが。
そんなクアラルンプールの中心部,プトラ国際貿易センター (PWTC) 駅のすぐ目の前,高級ホテルも入口が工事中で残念な Seri Pacific Hotelで第4回アジア野生動物医学会は開催されました。
ホストは UPM (University Putra Malaysia),マレーシア獣医学会 (Veterinary Association Malaysia; VAM) との共同開催です。
セッション Non-human Primates
東南アジアの人は冷房が大好きです。例に漏れず冷気冴え渡るNon-human Primatesの会場で,しかしディスカッションは熱く繰り広げられました。
準備された5題の中の3題は日本から,しかも全てSPDP会員でした。
◆予防衛生協会の片貝祐子さんは三日熱マラリアのヨザル感染実験で,発熱やサルの活動性と原虫の成長サイクルとの関連性を見事に考察していました。
◆後藤俊二さんは ニホンザルの骨髄性白血病症例を報告しました。病変は胸腔,腹腔内に多発性に認められ,その特徴的な増殖様式と腫瘍細胞のMyeloperoxidase 陽性所見から診断を下していらっしゃいました。これまで7例の報告があるのみで,会場からの質問にもありましたが,遺伝的な背景について興味が持たれます。
◆酪農学園大学の浅川満彦さんは,日本国内の施設で飼育されていたカニクイザルから検出された寄生虫を数例ご紹介下さいました。しかも2007年以降の事例です。
見つかった寄生虫は,条虫,肺吸虫,腸結節虫,糸状虫,舌虫でした。
腸結節虫が典型例である様に,多くの場合寄生虫は宿主に対して顕著な健康被害を与えるものではありませんが,これが研究用サルともなると免疫状態の変化を介して実験結果を左右しかねません。有効な駆虫薬が市販されていますので,検疫の時にしっかり見つけて駆除したいものです。
◆台湾の 国立屏東科技大学から台湾ザルで3例も発生したギラン-バレー症候群 (疑い例)の報告がありました。サルでは後躯麻痺が特徴的に顕われ,脳脊髄液の高タンパク含量と病理で末梢神経の脱髄所見が認められればこの病気を考える必要があります。なお報告された3例はいずれも雄でした。
◆香港 Ocean Park Corporation のP. Martelliさんはマカクサルの繁殖コントロールに内視鏡による卵管摘除が有効であることを報告しました。雌を対象とした方が効果が確実な事,卵巣摘出に比較してサルへの生理的な影響がはるかに小さい事,従来の外科手術法に較べて侵襲が極めて小さい事がこの方法のメリットです。
アジアはサルのふるさとの一つです
野生動物の中でもサル類は数多くの研究や観察の対象となっています。
また,野生サルで見られる多くの疾病は実験用サルにも発生する危険があります。
これまでこの学会でサルのセッションを設けてきたことにより,日本国内では得られない多くの情報を手に入れ,海外のたくさんのサルのプロたちと交流を拡げてくることができました。
SPDPによるこの学会への援助は今年で一つの節目を迎えましたが,来年以降も何らかの形で協力をして行きたいと考えています。そしてSPDPのネットワークをさらに海外へ拡げたいと思います。
ネットワークといえば
アジアの経済発展には目を見張るものがありますが,その裏腹で動物たちの暮らす自然環境は人為的に変わってゆきます。実はヒト社会の経済的活性化と人獣共通感染症の発生は無関係ではないのです。SARS,高病原性インフルエンザ,エボラ出血熱やマールブルグ病もその発生や拡大の過程にヒトの活動が関わっています。
One World, One Healthの概念のもと,世界はその意思を一つにして悪化する事態に取り組まねばなりません。それにはまずアジアで最前線に立つ獣医師のネットワークづくりが必要です。今回の集会では,そのブレインストーミング会議がありました。
ネットワークづくりの協議は今後も継続されますので,新たに情報が入ったらお知らせします。
◆SPDPはサル関連の情報の中心を担うべく結成された研究会です。
皆様からの情報はどんな小さなものでも結構です。ぜひSPDPへお知らせ下さい。
そして次の集会は
2011年は第4回アジア野生動物保全ワークショップの開催となります。
場所: ネパール
主催者代表: Dr. I.P. Dhakal
Institute of Agriculture and Animal Science, Tribhuvan University
ヒマラヤの麓でお会いしましょう。